9.09.2020

Project オクト N04 手練のヴァイオリン職人 その壱

 この数年世界では、ポケという料理が流行っています。元はハワイの料理ですが、さらに変化をしてサラダ風になって海外の大きな街で多く見かけるようになりました。
 サラダ風ポケを見るたびに、文化の変化や大衆化、コモディティを見たような気がして職人と呼ばれる人の将来をキューブのマグロにかせねてせつなくなる楽器作家、永石勇人です。

慣れる職人、慣れを嫌うアーティスト

 このところ楽器職人の世界を見ているとヴァイオリン職人はむしろヴァイオリン・クリエーターというのかなという感じがしています。ヴァイオリンはすでに簡単にだれにでもyoutubeなどをフォローすれば作れものになってしまいました。ここにきてプロとアマの境界も微妙になってきているのですが、、職人本来の意味合いも変わってきているように感じます。


リブと呼ばれる厚み13mm前後の薄いメープルの板は手作業で厚み分布を調整する
オクテットのトレブル・ヴァイオリンの横板の厚みだし。手作業で1,1ミリまで持っていく。スクレーパーで仕上げることでペーパー仕上げのように粉塵が木の道管に入らないためニスのエフェクトが活きるようになる。もう、飽きるほどこのルーティーンワークを続けている。。。

 昔から職人はいわゆる人間機械のようなものをさしていまして、高品質のものを手際良く作るのが職人の役割でした。ことに若い時より”習うより慣れろ”というような調子で手が勝手に動くように修練をしていたそうです。

 
 小生も旧世代の人に手習をしたものですから、手際の良さは同業の職人がみてもハッとするものでしょう。
 横板の厚みだしや、板のジョイント、研ぎ、スクロールのカービングまで、20代で全て手が覚えるようになってしまいました。作業に迷いがないのです。



続く・・・ 

永石勇人

 


 
 

8.31.2020

project オクト No3 ヴァイオリンのデザインとは

 
 マンハッタンにも秋の匂いがうっすらと混じってきました。夕暮れに文章を書くことがほとんどないのですが、なんとなく気分がいいので少し過去の思い出をと思ったところ、意外にも常に今が充実しているのでいい思い出に浸ることもできないヴァイオリン作家、永石勇人です。

 ヴァイオリン制作というデザイン

 弓弦楽器のカテゴライズと形の関係を考えていまして、ヴィオール族、ヴァイオリン族、リラ族といろいろあって、、、調弦によるところが大きくあるように感じました。まず、形を決めるときにストラディヴァリモデルとかグァルネリモデルと呼んでいるのはヴァイオリンが工場(みたいなミルクールとか)で量産されるようになってからの話で、本来の楽器製作道からはずれたいわゆるコピーのはじまりですね。←今風の楽器職人のあけぼの、ネットができてからますますフラット化が進んでいて世界中のみんなが同じヴァイオリンを作るようになってしまったね

 ハッチンスでさえ、まずストラディヴァリを基準に考えているのですが、元はアンドレア・アマーティ(クレモナ、イタリア 1505-1577)の工法、デザインにしたがったことになりますよね。基本的には4弦の五度調弦が大々前提にありまして、このデザインそのものがアマーティが作ったものといえるでしょう。小生はここにアンドレア・アマーティの凄さがあり、後500年にわたってコピーされ続けたデザインのオリジナルにリスペクトを感じます。←アマーティが元祖になった理由は良い弟子とアピール力(どうやらフランス国王に送ったのはアマーティ側らしい説)


 フランソワ・デニ(スランス、The Traité de Lutherie著者)によるとアマーティは初めて幾何学的にヴァイオリンリン族をデザインした人物であるとのことです。これは試行錯誤で作品を作ったことを思わせるなんとも元祖らしい話で気に入っています。強い意志と想いで作られたものは文化を生む可能性を十分に秘めていることを感じさせますね。
 下の図はアメリカのマスタークラス、オーバリンの友人ハリー教授がデニのデザインをもとにプログラム出力したものです。これ、意外に便利です。




 さらにその中にも、小生は良し悪しで測れない強い文化と弱い文化があると考えていまして、イタリアはその奇抜さと強引さからの強い文化を多く生み出しています。その昔、イタリアの友人がピッツァを国外に持っていき口に押し込む文化なんて言ってましたが、すこしイタイけど納得できる話です(ピッツァは原価率、再現性、インパクトがいい)。ヴァイオリンという楽器の文化もそのコンセプト、デザインから強い文化でして、ソプラノ部を受け持つヴァイオリンの音域と情圧の表現力の高さは弦楽器特有の説得力ですね。そして、楽器の中では製作が比較的に簡単、材料はなんと木材。そんなヴァイオリンのイラストにせよ写真にせよアイコンとしての機能を持っているものすべてはアマティのデザインである強い文化というところでしょう。
 一つの機能を持った一つのデザインがこれだけ長期間使われ続けているのにも驚きですが、それがフィレンツェやパリやニューヨークのアーティストでなく田舎町の一人の職人によって生み出されたところも特筆するところでしょう。厳密には前後に似たような発明があるので突然変異で現れたものではありませんが。。。まえにマンガキャラクターに必要な特性にシルエットでわかるキャラの濃さが重要とききました。まさにこれだな〜っと。 




 と、だらだら書いてしまいましたが、要するにアマーティ工法を用いての制作ですということです。。。

工房より愛をこめて
永石勇人
 

 

8.24.2020

project オクト No.2  新たなヴァイオリン族 クリエイターとしてのハッチンス


haja&Chi
イタリア ヴァイオリン チェロ 作家
永石勇人 清水ちひろ

 ニューヨークの工房で早朝出勤して書いています。
朝のミッドタウンは静けさが心地よく、朝食、雑務(簡単な修理の接着、リタッチ)もここですませてしまいます。30歳超えてから朝方なんだなっ、と気付いてきたヴァイオリン作家、永石勇人です。


続き

しかしながら、明らかにハッチンスがした最高の仕事はこれではなく、小生が最も興味を惹かれリスペクトするものは、彼女(ハッチンス)が生み出した作品→ハッチンス・コンソートと呼ばれる8本からなるヴァイオリン族楽器郡です。オクテットと呼ぶのが好きです。。。
これを実験的作品と取るか、傑作品と取るかは、視点や価値観によると思います。
 作品のコンセプトは、既存のヴァイオリンをベースに各音域に合わせて5度調弦の楽器を音響的考察を含めリデザインするもので、小生はフランス人(ヴィヨームとか)やイギリス人(ヒルとか)もできなかった革命のように感じています。もちろん、エレキ楽器の登場のインパクトには負けていますが。。
 クアルテットでヴィオラの立ち位置が議論されることがありますが、オクテットでは全ての楽器の音域が3分の2づつ重なる異様な世界観をつくります。かつてヴィオラ・テノーレとコントラアルトが共存したような同じ音域であっても”音質”の違いを作り出す試みににています。ここに興味をそそられます。


 現在ではヴァイオリン族は固定されその範疇での表現、技術を楽しむ芸術が一般的ですが、限界もきています。この異質な音響体が音楽の幅を増やせるなら楽しいじゃないですか。何も油絵を書くのに丸筆だけが表現方法ではないということで。。演奏には練習がひつようですが、もちろん先生は存在しません。
 実際に、作って弾いて長所、短所いろいろ見えてくることでしょう。そのクセを生かした新しい音楽体験が経験できればと考えています。音楽家の可能性、活動が広がる可能性にあふれています。

 とにかく、20世紀には多くの楽器が生まれましたが、いまだにこの楽器郡の認知があまいのが歯痒く、これを紹介すべく製作を開始いたしました。プロジェクトは数年計画でヴァカンス、休日を利用して製作しています。本業のヴィオリン、チェロ製作、オールド楽器の修理の合間に製作するのでかなりスローではありますが完成はさせるので、ぜひフォローしてください。


 このプロジェクトは友人の楽器職人の大月さんと一緒に進めています。上の写真はクレモナ大聖堂の前で、夏のヴァカンスでイタリアを満喫しているaround 50'風の大月さん。8本あるので、二人で一緒につくれば早いでしょ、という考えです。一人での自己満より共有して喜びたい思いでコラボしています。小生にはステージで弾かれてるイメージがすでにあります。あとは早く音を聞きたいだけですね。皆さんと、オクテットの音をシェアできる日が待ち遠しいです。

永石勇人

8.17.2020

proectオクト No.1 ハッチンスのヴァイオリン族 オクテット・コンソート  






 キャリアを積めば積むほど、楽器職人とはなんだろうとつくづく考えてしまっています。霧の立ち込める道を早朝に走っている感じです。ヴァイオリンや楽器職人のwiki的なニュアンスがどうもしっくりこなくなってきてしまいました。まだ、道が見えているという意味では進んでいくしかないと思っている楽器作家、永石勇人です。


ハッチンスとオクテット・コンソート

 ヴァイオリンの歴史は500年になりますが、数字というモノサシでヴァイオリン族を読み解こうとしたのはここ50~60年のことです。アメリカの科学者ハッチンス(USA 1911-2009)によって名器の共通項を探す意味で、特にヴァイオリン個体それぞれが持つ特性をつかもうというこころみが始まりました。結果も良好でして20世紀のうちに多数のストラディヴァリやグァルネリといった楽器のデータが取られました。ただ、そこから理想とするヴァイオリンの指標をつくってしまったわけでもありまして、、、一概によしとできないと感じています。さらに、これをコンテンポラリーに当てはめ、ミュージシャンのフィードバックを得てビジネスにつなげることに成功。特にアメリカはこれを”こたえ”または”売り”として21世紀になった今でも檀をつくり前に進めています。ヴァイオリン音響研究といえばほぼ、これに似通ったものを指す感じです。


 まとめると、”(目標の)ストラドの秘密を研究で探り、(新作で)超える”という題です。これはまぁ、よく聞く(営業)スローガンです。この”秘密”を研究対象として生み出したことがヴァイオリン業界の最大の発明!そしてこれに支えてられているように感じます。
 また、感や経験を頼りにする職人の立場から、”科学的”という言葉は逆に魔法に聞こえるため、信者を増やし後世に大きな影響をあたえました。もちろんその魔法は今でも更新され大いに楽器製作に活用できるものであります。実際、小生はステッキをふりまくっている魔法使いです。

続く・・

永石勇人 ニューヨーク



 





1.17.2020

西暦2019年 クレモナからニューヨークへ

haja&Chi
イタリア ヴァイオリン チェロ 作家
永石勇人 清水ちひろ

明日、ニューヨークに発ちます
 イタリアに来て19年。ヴァイオリン制作発祥の地、クレモナで制作家として生き、いろいろなものを五感で感じ取りました。
 人生の半分、多くのことを学びこの街が永石勇人を作ったことは間違いありません。アメリカを目指すのもイタリアにいたから夢見たことでした。


 楽器作家として18歳の時に描いた熱い構想は今でもさめる事がありません。音楽を中心にした文化活動の一部に携わる職人が目指すものは常にブレることなく。ただただ、前に進むのみです。




 ニューヨークは弦楽器、音楽の街として自分に多くの体験をさせてくれることを期待しています。自分が渇望している、最前線で生きた楽器と向き合う技術、日本が将来、英、米、独、仏、伊に並ぶために欠かせないチームワーク、国際社会でのツール”英語”を身に付けるための渡米です。
 第三の人生の始まりです、18の時と意気込みだけは変わりません。
クレモナには工房を残します。欧米の往復となるでしょう。新しい生活が楽しみです。


永石勇人 令和元年 10月2日