2.27.2021

Project オクト N05 手練のヴァイオリン職人 その弐

haja&Chi
イタリア ヴァイオリン チェロ 作家
永石勇人 清水ちひろ


 ところが、このヴァイオリン職人界のコモディティ化が進んだ今日、簡単に誰でも工房が持てる時代、皮肉にも手の速さや手慣れた精巧さではなく、製作者本人のストーリーやキャラが重要視される時代に入ったと感じています。つまり、長年培った技術や知識はそれでしかなく、それ以外のスター性やトーク、ビジュアル、雰囲気など”職人らしい”ひとがヴァイオリン作りになる傾向にあります。それは、まさにアーティストと言える存在に近いように感じます。
 ただ、アーティストとは世界に問いを投げかける、問題提起する、自己のモヤモヤを具現化する人々という認識をしていますので、ここは一歩下がって、、クリエーターというかなっ、という感じで落ち着いています。

アルト・ヴァイオリンの横板を曲げて接着する様子。世界中の弦楽器の中でも本体がこれほど構造的に強くないのはヴァイオリン族ぐらい。これにバランスよく弦楽器の中で最も強い張力の弦をはるわけだから、かなり特殊な弦楽器、ヴァイオリン 。


 ヴァイオリン製作の世界は正解が無いものの、はたまた自己表現でもないので製作を続けるうちに自分の作品自体のコピーを作るようになります。世界観も大きく変わらず、アプローチも同じ手法になりがちです。そして無限の模造品がうまれます。これを打破したく毎日この悩みとたたかっています。いろいろな表現や角度の違う切り口があるはずです。
 小生が毎年トライしているヘンテコ楽器は弦楽器という範疇は超えないものの、普通のヴァイオリン に飽きた時にいわゆる”遊び心”でプロジェクトしているものです。ただ、常に本気です。むしろ、手慣れたヴァイオリンの100倍は悩み、苦労してとりかかっています。このオクテットも試行錯誤や情報集め、そのオブジェクトの存在意義などのステートメントを書くようなアーティストのアプローチです。ここに"クレモナ製という商品"でない永石勇人の作品が姿を表します。音作りと工芸を兼ね備える弦楽器であるからこそ、職人らしいひとが作った商品におわらない、手練れの職人技術が創作の裏打ちをすると感じています。

永石勇人 ニューヨーク