2.15.2015

3.Violoncello da spalla(ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラ)

 haja&Chi
イタリア ヴァイオリン チェロ 作家
永石勇人 清水ちひろ


2015年 hajato チェロ・ダ・スパッラ





ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラ
ヴィオラ・ポンポーザ

 4〜5弦


バッハの無伴奏チェロ組曲があったから、小生は楽器づくりをめざしました。
 実に16年前のことです。この楽器を作る機会があることは一つの楽しみです。




 チェロ弾きならご承知のとおりバッハ無伴奏チェロ組曲は3番、6番で親指を使う、6番の高ポジ、曲全体アルペジオなどなどバロック時代のチェロ奏法では不自然な箇所が多くみられます。
 これを歴史的な観点から解決したのが、チェロ・ダ・スパッラ。あくまでも仮説なのですが、実際にもバッハとコラボをしていた楽器工房ホッフマン家の作品のなかに多くの大きなヴィオラ!?が存在します。
 また、20世紀の音楽研究者がその論文で残しているようにヴァイオリン奏者が持ちかえでチェロパートを演奏していたことなどなどスパッラ説の信憑性はかなり高いのではないでしょうか。
 過去の研究者はこれをヴィオラ・ポンポーザとよび、近年ではスパッラとして知られるようになりました。シギスヴァルト・クイケンのスパッラはyoutubeなどでも有名ですね。

 自由なバロックの時代、楽器のサイズは必要に応じて制作者が作っていたのでサイズはまちまちです。現行の物は46cm〜48cmぐらいが普通ですが、普通のチェロを横にすればそれはもうチェロ・ダ・スパッラ(spalla=肩)とも呼べました。この時代、楽器それぞれに明確な名称はなくスタンダード化もされていなかったので、イタリア料理の名前のように固有名詞ではなく楽器の説明がそのまま楽器の名前になったようなものです。
 そもそもVioloncello(ヴィオロンチェロ=チェロ、小さいヴィオローネ)と言う固有名詞さえ18世紀にはいってからようやくイタリアで普及し始めた単語です。バッハは楽譜でこのチェロを明確に意図して書き分けて指示していないことが議論のはじまりです。。はたまた書き分ける必要すらなかったのか・・


バロック仕様で生まれたスパッラ
オールドタイプの釘でネックを補強します。
もう一つ大きな問題がガット弦の特性上弦長44cm前後の弦長でチェロのドをだせない・・・ということでした。
 今でも6番を足に挟む5弦バロックチェロで弾く際に1600年代の楽器をイメージすることがありますがガット弦の進化、巻き線の普及から考えると1720年前後の楽器と17世紀の楽器は大きく違います。1600年後半から普及し始めたとされる巻き線のおかげで楽器の小型化を図ることが出来ました。かのストラディヴァリにおいても初期のチェロは大型の物が多く晩年には現在の7/8チェロぐらいのチェロを製作しています。弦と楽器、演奏家、作曲家がコラボをした結果、新しい道具で新しい音楽が出来上がっていった時期だったと思います。

 その最終形態として巻き線を二重にして重量を増す”スパッラの弦”が誕生したわけであります。音よりも使いやすさを求めた小型のチェロは教会、サロンでは重宝したはずです。
 ながい間、音質の面でタブーと思われていた二重巻き線ですが今では多くのガット弦メーカーが製造しています。もちろん現代のスチール、ナイロン弦では二重巻き線は当たり前でコントラバスになりますと6重ぐらい巻かれています。

 曲のレパートリーは少ないもののバッハ・チェロとして楽器づくりの視点からもクレアティヴィティーを誘う一本です。
 また芸術家として新しい物を追求する作曲家、演奏家のブルーオーシャンではないでしょうか。21世紀のテクノロジーに力をかりれば多くの可能性を引き出せるチェロ・ダ・スパッラです。



楽器作家 永石勇人